最二小決 平成26年10月29日 政務調査費と「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」

2014年11月18日

判決(決定)の概要・要旨

  • 使途基準に違反して支出された政務調査費の返還を求める訴訟において、相手方ら(本案被告・県議会議員)の所持する政務調査費の支出に係る1万円以下の支出に係る領収書その他の証拠書類等及び会計帳簿について、文書提出命令の申立てがなされた事案。
  • (一般論として)ある文書が、その作成目的、記載内容、これを現在の所持者が所持するに至るまでの経緯、その他の事情から判断して、専ら内部の者の利用に供する目的で作成され、外部の者に開示することが予定されていない文書であって、開示されると個人のプライバシーが侵害されたり個人ないし団体の自由な意思形成が阻害されたりするなど、開示によって所持者の側に看過し難い不利益が生ずるおそれがあると認められる場合には、特段の事情がない限り、当該文書は民訴法220条4号ニ所定の「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たると解するのが相当である(最二小決平成11年11月12日・民集53巻8号1787頁、最一小決平成17年11月10日・民集59巻9号2503頁、最二小決平成22年4月12日・裁判集民事234号1頁等参照)。
  • 「岡山県議会の政務調査費の交付に関する条例」において、1万円を超える支出に係る領収書の写しの提出を義務付けており、1万円以下の支出に係る領収書の写しまで提出を義務付けてはいないが、議員が行う調査研究活動にとっては、一般に、1万円以下の比較的少額な支出の方が1万円を超えるより高額な支出よりもその重要性は低いといえるから、前者の支出に係る金額や支出先等を公にされたとしても調査研究活動の自由を妨げるおそれは小さいといえる。そうすると、条例の定めは、1万円以下の支出に係る領収書について、およそ公にすることを要しないとしたものではなく、これらの書類を議長等が直接確認することを排除し、領収書の写しの作成や管理等に係る議員や議長等の事務の負担に配慮する趣旨に出たものと解するのが相当。
  • 「岡山県議会の政務調査費の交付に関する条例」において、政務調査費の支出につき、金額の多寡にかかわらず、領収書など証拠書類の整理保管及び保存が義務付けられており、これら証拠書類等は、議長が本件条例に基づく調査を行う際、必要に応じて金額の多寡にかかわらず直接確認することが予定されている。
  • 「岡山県議会の政務調査費の交付に関する規程」において、会計帳簿の調製及び保存も義務付けられており、会計帳簿は、領収書など証拠書類等を原始的な資料とし、これらの資料から明らかとなる情報が一覧し得る状態で整理されたものであるといえるから、上記証拠書類等と同様に、議長が本件条例に基づく調査を行う際、必要に応じて直接確認することが予定されている。
  • 以上のような事情から、領収書などの証拠書類等及び会計帳簿は、外部の者に開示することが予定されていない文書であるとは認められず、民事訴訟法220条4号ニ所定の「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たらないとした事例。

基本情報

裁判年月日 平成26年10月29日
裁判所 最高裁判所 第二小法廷
裁判の種類 決定
主文
  • 原決定を破棄し,原々決定に対する抗告を棄却する。
  • 抗告手続の総費用は相手方らの負担とする。
担当裁判官 鬼丸かおる 千葉勝美 小貫芳信 山本庸幸
意見
事件番号 平成26年(行フ)第3号
事件名 文書提出命令に対する抗告審の取消決定に対する許可抗告事件
原審裁判所 広島高等裁判所 岡山支部
原審事件番号 平成26年(行ス)第1号
原審裁判年月日 平成26年5月29日

最二小決平成26年10月29日(裁判所ホームページ)

関係法令等

地方自治法

  • 第100条 普通地方公共団体の議会は、当該普通地方公共団体の事務(自治事務にあつては労働委員会及び収用委員会の権限に属する事で政令で定めるものを除き、法定受託事務にあつては国の安全を害するおそれがあることその他の事由により議会の調査の対象とすることが適当でないものとして政令で定めるものを除く。次項において同じ。)に関する調査を行うことができる。この場合において、当該調査を行うため特に必要があると認めるときは、選挙人その他の関係人の出頭及び証言並びに記録の提出を請求することができる。
  • 2~13 (略)
  • 14 普通地方公共団体は、条例の定めるところにより、その議会の議員の調査研究その他の活動に資するため必要な経費の一部として、その議会における会派又は議員に対し、政務活動費を交付することができる。この場合において、当該政務活動費の交付の対象、額及び交付の方法並びに当該政務活動費を充てることができる経費の範囲は、条例で定めなければならない。
  • 15 前項の政務活動費の交付を受けた会派又は議員は、条例の定めるところにより、当該政務活動費に係る収入及び支出の報告書を議長に提出するものとする。
  • 16~20 (略)

(住民訴訟)

  • 第242条の2 普通地方公共団体の住民は、前条第1項の規定による請求をした場合において、同条第4項の規定による監査委員の監査の結果若しくは勧告若しくは同条第9項の規定による普通地方公共団体の議会、長その他の執行機関若しくは職員の措置に不服があるとき、又は監査委員が同条第4項の規定による監査若しくは勧告を同条第5項の期間内に行わないとき、若しくは議会、長その他の執行機関若しくは職員が同条第9項の規定による措置を講じないときは、裁判所に対し、同条第1項の請求に係る違法な行為又は怠る事実につき、訴えをもつて次に掲げる請求をすることができる。
    • 一 当該執行機関又は職員に対する当該行為の全部又は一部の差止めの請求
    • 二 行政処分たる当該行為の取消し又は無効確認の請求
    • 三 当該執行機関又は職員に対する当該怠る事実の違法確認の請求
    • 四 当該職員又は当該行為若しくは怠る事実に係る相手方に損害賠償又は不当利得返還の請求をすることを当該普通地方公共団体の執行機関又は職員に対して求める請求。ただし、当該職員又は当該行為若しくは怠る事実に係る相手方が第243条の2第3項の規定による賠償の命令の対象となる者である場合にあつては、当該賠償の命令をすることを求める請求
  • 2~12 (略)

民事訴訟法
(文書提出義務)

  • 第220条 次に掲げる場合には、文書の所持者は、その提出を拒むことができない。
    • 一 当事者が訴訟において引用した文書を自ら所持するとき。
    • 二 挙証者が文書の所持者に対しその引渡し又は閲覧を求めることができるとき。
    • 三 文書が挙証者の利益のために作成され、又は挙証者と文書の所持者との間の法律関係について作成されたとき。
    • 四 前三号に掲げる場合のほか、文書が次に掲げるもののいずれにも該当しないとき。
      • イ 文書の所持者又は文書の所持者と第196条各号に掲げる関係を有する者についての同条に規定する事項が記載されている文書
      • ロ 公務員の職務上の秘密に関する文書でその提出により公共の利益を害し、又は公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれがあるもの
      • ハ 第197条第1項第2号に規定する事実又は同項第3号に規定する事項で、黙秘の義務が免除されていないものが記載されている文書
      • ニ 専ら文書の所持者の利用に供するための文書(国又は地方公共団体が所持する文書にあっては、公務員が組織的に用いるものを除く。)
      • ホ 刑事事件に係る訴訟に関する書類若しくは少年の保護事件の記録又はこれらの事件において押収されている文書