株式等売渡請求の撤回-会社法第179条の6(新会社法・平成26年改正)

売渡請求の撤回

特別支配株主は、対象会社が株式等売渡請求の承認をした後は、対象会社が承諾した場合に限り、株式等売渡請求を撤回することができます。

撤回を認める理由

株式等売渡請求をした後に特別支配株主の財政状態が悪化する事態が生じても、売渡請求が撤回できないとなれば、売渡株主等は、株式等を譲渡するにも関わらず、その対価を受け取れないといった事態が生じる可能性があります。
そのため、撤回を認めた方が、売渡株主等の利益になることも考えられることから、株式等売渡請求の撤回が制度上認められています。

しかしながら、特別支配株主が自由に撤回できるとすると、売渡株主等が不測の損害を被る可能性もあることから、会社法では、対象会社の承諾を条件として撤回を認めることとしています。

撤回の可否は誰が決定するの?

対象会社が取締役会設置会社の場合、株式等売渡請求の撤回は、対象会社の取締役会の決議によって決定されます。
取締役会においては、株式等売渡請求を承認する場合と同様、売渡株主等の利益を考慮し、善管注意義務をもって判断しなければなりません。

特別支配株主への通知

対象会社が、株式等売渡請求の撤回を承諾するか否か決定したときは、特別支配株主に決定の内容を通知しなければなりません。

売渡株主等への通知

対象会社が株式等売渡請求の撤回を承諾したときは、売渡株主等に対し、撤回を承諾した旨を通知しなければなりません。

なお、上記売渡株主等に対する通知は、公告に代えることができます。
株式等売渡請求を承認した場合と違い、売渡株主に対する通知も公告に代えることができます。

これは、売渡請求を承認した際に、いったんは個別の通知がなされており、売渡株主においても対象会社の動向に注意が払われているだろうから、公告に代えても問題ないと考えられるためです。
また、株式売渡請求の承認は、その後の手続の進行により、株主の地位が失われるといった重大な権利変動が予定されるのに対し、売渡請求の撤回は、それと比べて売渡株主に与える不利益が小さいことも理由として挙げられます。

通知・公告の費用負担

対象会社から売渡株主等又は登録株式質権者等に対する通知又はそれに代わる公告に要する費用は、特別支配株主の負担となります。
これは、株式等売渡請求を承認した場合と同様の趣旨からです。

新株予約権売渡請求の撤回

特別支配株主は、株式売渡請求とあわせてした新株予約権売渡請求も、対象会社の承諾を得た場合に限り、撤回することができます。

なお、新株予約権売渡請求は、株式売渡請求とあわせてする場合に限って認められるものであることから、新株予約権売渡請求を撤回することなく、株式売渡請求だけを撤回することはできません。
一方、新株予約権売渡請求は、義務でないことから、新株予約権売渡請求のみの撤回し、または株式売渡請求とあわせて新株予約権売渡請求を撤回することは、認められます。

条文-会社法第179条の6

(株式等売渡請求の撤回)

  • 第179条の6 特別支配株主は、第179条の3第1項の承認を受けた後は、取得日の前日までに対象会社の承諾を得た場合に限り、売渡株式等の全部について株式等売渡請求を撤回することができる。
  • 2 取締役会設置会社が前項の承諾をするか否かの決定をするには、取締役会の決議によらなければならない。
  • 3 対象会社は、第1項の承諾をするか否かの決定をしたときは、特別支配株主に対し、当該決定の内容を通知しなければならない。
  • 4 対象会社は、第1項の承諾をしたときは、遅滞なく、売渡株主等に対し、当該承諾をした旨を通知しなければならない。
  • 5 前項の規定による通知は、公告をもってこれに代えることができる。
  • 6 対象会社が第4項の規定による通知又は前項の公告をしたときは、株式等売渡請求は、売渡株式等の全部について撤回されたものとみなす。
  • 7 第4項の規定による通知又は第5項の公告の費用は、特別支配株主の負担とする。
  • 8 前各項の規定は、新株予約権売渡請求のみを撤回する場合について準用する。この場合において、第4項中「売渡株主等」とあるのは、「売渡新株予約権者」と読み替えるものとする。