株式売渡請求-会社法第179条(新会社法・平成26年改正)

株式売渡請求の概要

特別支配株主の株式等売渡請求とは

ある会社の総株主の議決権の10分の9以上を保有する株主が、当該会社の他の株主全員に対し、その保有する株式の全部を、自己に売り渡すよう請求することができる制度です。

なぜ株主等売渡請求が導入されたのか?

株式等売渡請求は、対象会社から非支配株主(少数派株主)を排除し、特別支配株主と対象会社との間で完全親子会社関係を構築するための制度として導入されるものです。
改正前会社法でも、完全親子会社関係を実現するための方法として、株式交換や全部取得条項付株式等の制度が用意されていましたが、実際には株式公開買付(TOB)を実施し、その後に全部取得条項付株式を利用して、非支配株主(少数派株主)を排除するという方法が用いられてきました。
ただ、全部取得条項付株式を利用する方法は、株主総会の開催が必要であり、一定の期間や費用が必要となり、それに先だってTOBを実施することになれば、さらに時間や費用がかかってしまいます。
そのため、時間や費用をかけることなく、より簡便に完全親子会社関係を構築するための制度として、株式等売渡請求の制度が導入されることとなりました。

売渡請求ができる株主

特別支配株主とは

ある会社の総株主の議決権の10分の9以上を、単独で又はその者の完全子会社等(特別支配株主完全子法人)と共同して保有している者をいいます。

「10分の9」という割合は、定款をもって変更することができます。ただし、要件を厳格にする方向での変更しか認められず、緩和することはできません。
○ 100分の95
× 10分の8

特別支配株主完全子法人とは

特別支配株主によって、発行済株式の全部を保有されている株式会社等をいます。

売渡請求の対象となる会社

売渡請求によって売り渡すよう請求することができる株式の発行者(対象会社)は、株式会社であればどんな会社でもよく、大会社であるか否か、公開会社であるか否かは問われていません。

ただし、清算会社が発行する株式は、その対象から除かれています(会社法509条2項)。

売渡請求の相手方となる株主

株式売渡請求は、特別支配株主以外の株主を対象会社から排除するための制度なので、売主となる株主は、特別支配株主以外の株主全員となります。

ただし、対象会社が保有している自己株式については、議決権が制限されており(会社法308条)、完全親子会社関係の障害とはなりませんし、会社が保有する自己株式の譲渡は、募集株式の発行(会社法199条以下)として規律されることになるため、売渡請求の対象になりません。

また、特別支配完全子法人は、特別支配株主の支配下にあり、特にこれを排除する必要もないことから、売渡請求の相手方としないことができます。

売渡請求の対象となる株式

売渡請求の対象となる株式は、上記売渡請求の対象となる株主が有する株式のすべてです。

対象会社が種類株式発行会社の場合、すべての種類の株式について売渡を請求しなければなりません。一部の種類だけの売渡請求はできません。

新株予約権の売渡請求

新株予約権を発行している対象会社について株式売渡請求をする場合、特別支配株主は、新株予約権を有する新株予約権者に対し、その有する新株予約権を売渡すよう請求することができます。

株式売渡請求によって完全親子会社関係が構築されたとしても、その後に新株予約権が行使され、特別支配株主以外の株主が現れることとなれば、株式売渡請求によって完全親子会社関係を構築したことの意義が失われてしまうため、それを防止するために認められたものです。

あくまで株式売渡請求の実効性を担保するために認められた制度なので、株式売渡請求をする場合に限り、それに付随的に請求することができます。株式売渡請求をすることなく、新株予約権だけの売渡請求をすることはできません。

なお、新株予約権売渡請求をする場合、その対象となる新株予約権が社債に付されたものであるときは、原則として、社債部分も含めて売渡しを請求しなければなりません。
ただし、新株予約権の発行の際、募集事項に別段の定めをしていた場合には、この限りではなく、新株予約権だけの売渡請求をすることができます。(会社法238条1項7号)

条文-会社法第179条

(株式等売渡請求)

  • 第179条 株式会社の特別支配株主(株式会社の総株主の議決権の10分の9(これを上回る割合を当該株式会社の定款で定めた場合にあっては、その割合)以上を当該株式会社以外の者及び当該者が発行済株式の全部を有する株式会社その他これに準ずるものとして法務省令で定める法人(以下この条及び次条第一項において「特別支配株主完全子法人」という。)が有している場合における当該者をいう。以下同じ。)は、当該株式会社の株主(当該株式会社及び当該特別支配株主を除く。)の全員に対し、その有する当該株式会社の株式の全部を当該特別支配株主に売り渡すことを請求することができる。ただし、特別支配株主完全子法人に対しては、その請求をしないことができる。
  • 2 特別支配株主は、前項の規定による請求(以下この章及び第846条の2第2項第1号において「株式売渡請求」という。)をするときは、併せて、その株式売渡請求に係る株式を発行している株式会社(以下「対象会社」という。)の新株予約権の新株予約権者(対象会社及び当該特別支配株主を除く。)の全員に対し、その有する対象会社の新株予約権の全部を当該特別支配株主に売り渡すことを請求することができる。ただし、特別支配株主完全子法人に対しては、その請求をしないことができる。
  • 3 特別支配株主は、新株予約権付社債に付された新株予約権について前項の規定による請求(以下「新株予約権売渡請求」という。)をするときは、併せて、新株予約権付社債についての社債の全部を当該特別支配株主に売り渡すことを請求しなければならない。ただし、当該新株予約権付社債に付された新株予約権について別段の定めがある場合は、この限りでない。