対象会社の承認-会社法第179条の3(新会社法・平成26年改正)

対象会社に対する通知

株式売渡請求をする場合、特別支配株主は、対象会社に対して、実施しようとする株式売渡請求の内容(179条の2第1項の事項)を通知しなければなりません。

株式売渡請求と併せて新株予約権売渡請求をする場合には、新株予約権売渡請求の内容も通知しなければなりません。

対象会社の承認

特別支配株主は、株式等売渡請求について、対象会社の承認を受けなければなりません。

対象会社の承認が求められる理由

会社法が対象会社の承認を必要とした理由は、売渡株主や売渡新株予約権者の利益を保護することにあります。

株式売渡請求の手続が進んでいくと、売渡株主が株式譲渡に同意していなくても、売渡株主から特別支配株主へと株式譲渡の効果が発生します。

各株主には、自己の利益を守る手段として、
(1)売渡株式等の取得の差止請求(179条の7)
(2)売買価格の決定の申立て(179条の8)
(3)売渡株式等の取得の無効の訴え(846条の2)
といった手段が用意されていますが、各株主にこれらの手段を行使させることなく、売渡株主の利益を確保することができれば、その方が望ましいです。

そのため、会社法では、対象会社の取締役が善管注意義務(330条、民法644条)をもって売渡請求が売渡株主の利益にかなうものであるか否かを判断させるために、株式等売渡請求の承認を対象会社において行う、すなわち、対象会社の取締役がその職務として売渡請求を承認するか否かを決定すると定めたのです。

以上のとおり、株式等売渡請求に対象会社の承認を要求し、手続上の制約を課すことで、株主の利益を確保しようとしています。

承認するか否かの判断基準

対象会社の取締役は、特別支配株主から通知された売渡請求の内容を検討し、売渡請求の条件等が適正といえるか判断しなければなりません。
その判断要素としては、
(1)適法性(売渡請求の手続・内容が法令に従ったものであるか)
(2)対価の相当性
(3)対価の交付の見込み(売渡株主に対して確実に対価が支払われるか)
等が考えられます。

違法・不当な内容であるにもかかわらすそれを承認し、売渡株主等に損害が発生した場合には、善管注意義務(330条、民法644条)違反を理由として、株主等から損害賠償請求(429条1項)を受ける可能性があります。

なお、売渡株主等に対する取締役の責任は、一般的には、会社に対する損害賠償責任(423条)ではなく、第三者に対する損害賠償責任(429条)となります。
これは、会社法423条の責任が会社に損害を与えた取締役の責任であるのに対し、株式等売渡請求の対価が不当であったとしても、対象会社に財産上の損害が発生することはなく、売渡株主等が直接的に損害を受けることになるからです。

新株予約権売渡請求だけ承認できるか?

株式売渡請求とあわせて新株予約権売渡請求がなされた場合、対象会社は、新株予約権売渡請求のみを承認し、株式売渡請求を拒絶することはできません。

これは、新株予約権売渡請求が株式売渡請求を行う場合に限って認められる付随的な請求であることから、主たる請求である株式売渡請求を認めない場合に「オマケ」だけ認める必要はないという趣旨です。

もう少し詳しく・・・

特別支配株主が株式売渡請求によって対象会社の株式のすべてを取得したとしても、株式売渡請求手続が終わった後に、特別支配株主以外の者が新株予約権を行使すると、特別支配株主以外の株主が新たにあらわれてしまいます。
これでは特別支配株主が株式売渡請求をした意味がなくなってしまいます。
そこで、会社法は、そのような事態を防止し、株式売渡請求の実効性を確保するため、株式売渡請求とあわせてする場合に限って新株予約権売渡請求を行うことを認めています(179条2項)。

このような趣旨に照らすと、対象会社が株式売渡請求の承認をしない場合に、付随的な新株予約権売渡請求だけを承認する必要はなく、また、承認することはできないと解されます。

決定は誰がするのか?

売渡請求を承認するか否かの決定は、対象会社の取締役会決議によってすることとなっています。取締役(代表取締役)にその承認を委任することはできません。

対象会社が種類株式発行会社の場合

ある種類株式の株主に損害を及ぼすおそれがあるときは、当該種類株主を構成員とする種類株主総会の決議を得なければなりません。
種類株主総会の決議がなければ、取締役会の承認も効力が生じません(322条1項1号の2)。

特別支配株主への通知

対象会社は、売渡請求を承認するか否かの決定をしたときは、特別支配株主に対し、決定の内容を通知しなければなりません。

条文-会社法第179条の3

(対象会社の承認)

  • 第179条の3 特別支配株主は、株式売渡請求(株式売渡請求に併せて新株予約権売渡請求をする場合にあっては、株式売渡請求及び新株予約権売渡請求。以下「株式等売渡請求」という。)をしようとするときは、対象会社に対し、その旨及び前条第一項各号に掲げる事項を通知し、その承認を受けなければならない。
  • 2 対象会社は、特別支配株主が株式売渡請求に併せて新株予約権売渡請求をしようとするときは、新株予約権売渡請求のみを承認することはできない。
  • 3 取締役会設置会社が第1項の承認をするか否かの決定をするには、取締役会の決議によらなければならない。
  • 4 対象会社は、第1項の承認をするか否かの決定をしたときは、特別支配株主に対し、当該決定の内容を通知しなければならない。